中には燃料が尽き、そのまま海上に墜落する機体もあれば、失速した所を敵戦闘機や艦砲射撃・機銃掃射の格好のマトになる機体もありました。大小弾丸を喰らい大破した僚機が、敵戦艦の司令橋に突っ込もうとしましたが力及ばず、目標を外れて艦のマスト付近の海上に墜落しました。

神風特攻隊の機体を途中まで護衛する護衛機と違い、特攻隊機には、迎撃用に充分必要な弾丸の代わりに1トン爆弾が搭載されていました。初めから敵艦主要部分への体当たりを目的とした玉砕攻撃こそ神風特攻隊最大の使命だったのです。

機銃攻撃で機体が著しく損壊し、損壊部分から漏れる燃料に引火した瞬間、機体を覆うかのような、気が狂わんばかりの火責めの高熱にパイロットは晒されました。

高熱に溶けていく操縦桿を離すまいと、全身を業火に燃やされながらも決死の覚悟で、尚も敵艦に体当たりを敢行しようとする一人の特攻隊員。最期の時は刻一刻と迫っています。

そして、きりもみ状態のまま、敵駆逐艦に体当たりした機体は敵海兵を多数巻き込み、爆発炎上しました。パイロットは既に絶命していましたが、想像を絶する衝突の激しさで肉も骨も残らず、体が木っ端微塵に砕け散るほどの耐え難い苦痛を感じないまま逝けた分、まだ少しは幸いだったのかもしれません。

一人の特攻隊員の玉砕の後、郷里の母の元へ戦死の報と一通の遺書が届きました。危急存亡をかけたお国のための戦いとは言え、大事な息子を失った母親の心中はいかなるものだったのでしょうか。